第11章 xxx 10.指名予約
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「クロ……さっきのは極端すぎ」
海沿いの高級住宅街。ウミネコの声。
日本人なら誰もが一度は見たことのある虹色橋が見える遊歩道で、研磨がぼそりと呟いた。
「そうかァ? ああでも言わねえと、あの兄ちゃん……確かホストクラブの幹部だっけか、諦めそうにもなかっただろ」
対する黒尾は缶コーヒー片手に、あくまで飄々として話す。
「それに……」と付け加えた彼は、微糖と書かれたそれを口に運んで、それから私のほうを見た。
「ほっとけなかったんだよ。カオリの肩、すげえ震えてた」
一般市民を守るのがボクのお仕事ですから。黒尾はおどけてみせて、ふと、目元を綻ばせる。
一瞬、ほんの一瞬だけど、その笑みが深い優しさに満ちていた気がして、思わず目を見張った。
強い潮風が、吹き抜ける。
ミャア、ミャア
天高くから降ってくるウミネコの共鳴。惹かれるようにして視線を海に向け、今度はポカンと口があいた。
「………きれい」
燦々と降り注ぐ陽光。
水面がキラキラ光る。
はるか遠い海岸線で、大きな大きな貨物船が高らかに汽笛を鳴らした。
荒んだ町に生きる私たちが見た束の間の、──朝焼け。
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