第10章 xxx 09.彼氏(仮)
「研磨ァ! けーんまー!!!」
え、うるっさ……なに?
聞き覚えのある声で目が覚めた私は、朝日差しこむ暗幕の隙間から、窓の外を見下ろした。
ここは雑居ビルの六階だ。
通りの両脇に詰まれたゴミ袋の山が随分と小さく見える。見えるのだが、その隣でバイクに跨がる男。
あいつ六階から見下ろしてもあんなにデカいのか。巨人か。巨人だ。
「……研磨、おきて」
シャワーを浴びてすっかりスッピンになった研磨は、私の隣ですやすやと寝息を立てていた。
迎えにきたのだ。
この、私のかわいいかわいい研磨を、あの悪徳警官が。
「ん、カオリ……なに」
「巨人がでたよ」
「きょ、じん……だれ」
「早く服着ないと食われるかもしれない。おもに私が」
「……ふうん?」
まだ要領を得ず寝ぼけている研磨の着替えを手伝って、カウンターで居眠りしてた光太郎を叩き起こして、退勤処理をした。
「じゃあ光太郎、また今日ね」
「おー……約12時間後な」
この町でしか通じないヘンテコな別れの挨拶。手短かにそれを済ませてエレベーターに乗りこむ。
ああ、いやだな。会いたくない。
だって黒尾怖いんだもん。顔が。
そんなことを悶々と考えていると、研磨がきゅ、と私の手を握って言った。
「だいじょうぶ。クロはね、うんと、ああ見えて……すごく優しいよ」