第10章 xxx 09.彼氏(仮)
「きもちよかった?」
「うん、すごくよかった」
どちらからともなく交わす会話。
交換するようにして落とすキス。
上がった息が整うまでのあいだ、何度も研磨の頬に唇を触れさせて、私もお返しをしてもらった。
なんか、しあわせだな。
幸せが何たるか、なんて、そんなのはまだ良く分からないけど。でも胸のあたりが暖かいのはホント。
「研磨……ありがと」
「ん?」
「私、研磨に出会えてよかった」
もしも、出会えずにいたら、──私はどうなっていたんだろう。
徹くんと岩泉さんの顔が脳裏に浮かんで、それを掻き消すようにして頭(かぶり)を振った。
もう、忘れよう。
この町にいる地点できっと、絶対、また顔を合わせるだろうけど。そのときにはもう、ただの同業者として、無感情で接せられるように。
忘れるんだ。その努力をしよう。
「……カオリ? 大丈夫?」
心配そうな声音で言って、研磨は、一本指で私の眉間をもみこんでくれた。
「ここ、皺よってる。悲しい顔。何かあった……?」
ああ、優しいな。研磨は優しい。
すごく心地がよくて、穏やかな彼の言葉、あったかい。研磨がそばにいてくれるだけで、もう充分だよ。
「ううん、何でもない……ありがとう」
本当に私、あなたと出会えてよかった。