第9章 xxx 08.遭遇
どれだけ走っただろう。
いつの間にか降りはじめた雨。急に暗くなった周囲。ぽつぽつと灯るのは、ラブホテルの空室を知らせるランプだろうか。
肩寄せ合って歩く男女と、千鳥足のサラリーマン。通りを歩く人影は私を含めて、たった四人。目が眩むような中心街の華やぎが嘘のようだ。
「………寒い」
誰に言うでもなく独りつぶやく。
かすれた声が虚しく響いて、消える。
ぎゅっと自分で自分を抱きしめて、うっすらと濡れはじめた道の真ん中で、うずくまった。
冷たいコンクリート。
鉛色が無表情で見つめ返してくる。
「どうしたの?」
聞こえたのは、優しい声だった。
「……どこか痛いの?」
顔をあげると、白々とした綺麗な手が控えめに差しだされる。街灯で逆光になっているせいか、その声の主がどんな顔をしているのかは分からない。
足元には真っ赤なハイヒール。
ふわりと広がるシフォンスカートから伸びた脚は細く、スラリとして美しい。
まるでお人形みたいだな。
なんとなく、そう思った。