第9章 xxx 08.遭遇
「あれ、泣いちゃったの?」
まるい雫。頬をぽろぽろと伝う。
徹くんのちょっと冷えた指先が伸びてきて、目から溢れたそれを拭った。
「女の子が恋のために流す涙はきれいだね。ほんと、純粋でさ、……すげえイライラする」
素直に俺と寝とけばいいのにさ。
彼はそう吐き捨てて身体を離す。
一体どうして、なにが、彼をそうさせるのか。私を見下げる目は冷たく、そこには何の感情も見てとれない。
いやだ。怖い。
ただひたすらそう思って、震える足で逃げだした。アダルトフロアを仕切るカーテンを押しのけて、狭い通路をがむしゃらに抜けて、走る。
ドンッ
何かに、誰かに、ぶつかった。
「スンマセ……って、カオリ?」
「……っいわ、いずみ、さん」
ああ、どうして。
なにも今一番会いたくない人と巡り合わせなくたっていいのに。タイミングと神さまって、残酷だ。
唇をきつく結んで、また走りだす。
「あっ、おい!カオリ!」
岩泉さんの声が背中に突き刺さって、ぽろり、涙がこぼれる。拭っても、拭っても、次から次に落ちてくる。
転がるようにして表に出て、キャッスルのキャッチが集まってる通りに背を向けて、国道沿いを走って、走って。
「っう……ひっ、く……ううっ」
カッコ悪い。こんな風に泣くなんて。
でも、なんかもう、どうでもいいや。
ふと空を見上げるとそこは、分厚くて赤い、都会の曇天だった。