第9章 xxx 08.遭遇
早くここから逃げよう。
身の危険を感じて逃走を試みるが、しかし、彼が簡単に逃がしてくれるはずもない。
「だーめ、逃がさない」
その言葉とともに引き寄せられて、今度は、彼の両腕に閉じこめられる。
挟まれたのだ。
後ろから抱き締められるかたちになって、商品棚と、徹くんの間に。退路はない。
「そんなに怖がらないで」
逃げ場を失って青ざめる私の耳に、及川徹の一番の武器が滑りこんでくる。
「……一緒にきもちいいこと、しよ?」
背筋が粟立つほどの甘ったるい声。
脳に直接毒を注入されたように、思考が、理性が、麻痺していく。
「ドロドロになるまで愛してあげる……俺で、カオリの、ここを」
滑りおちた徹くんの手が下腹部を撫でた。
グッ、と彼の身体が密着して、後ろから男を押しつけられる。硬くなったそれは、私の腰あたりでジワリと熱を増した。
「ん、俺……興奮してきちゃった」
わざとらしい喘ぎ声のような喋り方。
これが彼の常套手段なのだろうと分かっていても、その色香は、恐ろしいほどに濃い。