第9章 xxx 08.遭遇
「俺はイチゴ味が好きだな」
何がどうしてこうなったのか。
今日も今日とて殺人的にイケメンな徹くんが、ローション片手にプリンススマイルを披露中である。
天井近くまで堆く商品が積まれた店内。狭い通路を進んだ奥の、奥の、そのまた奥。
ラブ玩具や卑猥なコスプレ衣装がひしめきあうアダルトフロアで、私は、及川徹に肩を抱かれていた。
「うわ、バナナ味だって。露骨~」
「そ……そうデスネ」
「これ口にいれても平気なんだってサ」
「へ、へえ、それはすごい」
視線を明後日のほうに向けて困り果てる。店で会ったならまだしも、箱の外で徹くんに会うのは危険だ。
思い出すのは坂ノ下食堂からの帰り道。私の住むアパート前での、光太郎との会話。
『及川の枕営業はマジでえげつねえ』
『そんなにひどいの?』
『人間じゃねーよ、あいつ』
あのチャランポランな光太郎が警戒するほどの相手なのだ。それなりの【前科】があるんだろうし、数々の女性客を傷つけてきたのだろう。
その刃が、今、私に向けられようとしているらしい。
「カオリちゃんはどれ使ってほしい?」
「ええと……どれ、とは」
「何味になって俺に舐められたいの、って聞いてるの。わかってるクセに言わせるなんて……えっち」
拝啓どこかへ蒸発したお母さん。
娘は、絶対絶命のピンチを迎えています。