第8章 xxx 07.恋愛禁止
ぬるりと腰を突き出せば、岩泉さんの色っぽい息が空気を揺らす。これ以上なにも聞かれないように、間髪入れずに唇を塞いだ。
見た目と違って柔らかい唇。
どうか、もう、なにも言わないで。
「っん、う……ッ!」
強張る彼の身体。
白濁としたものが吐きだされる。今までのどんなキスより深く繋がって、岩泉さんから言葉を奪う。
途端、肩を押しかえされた。
上がった息もそのままに、彼は聞く。
「……っ急に、どうしたんだよ」
こんなとき、何を言えばいいのか。どんな顔をすればいいのか。笑えばいいのかな。それとも、泣けばいい?
「わかんない」
「……カオリ?」
「……っわかんない」
違う。分からないんじゃない。
言いたくないだけ、あまりにも惨めだから。
本当は分かってる。
私には、なにもない。
気付けばお父さんはいなかった。酒と男癖の悪い母に愛想を尽かして一人で出ていった。母は、それでも何も変わらなかった。
小さな頃からずっと貧乏だった。友達なんかできたことなかった。いつも、いつも、ひとりでいた。
ないんだ、私には、なにも。
友達も、家族も、こころを寄せる場所も、希望も、未来も、なにも。
だから、ここで生きていかなきゃいけない。恋愛感情なんか持ちこんでる暇はない。そんなもの、邪魔なだけ。ツラいだけ。
だから、こうして、悲しい。
母が蒸発して二週間と、二日。
こころの奥に仕舞いこんだはずの虚無が一気に溢れだした。なにも岩泉さんの前でこんな風にならなくてもいいのに。
何やってんだろ。私。
「ごめんなさ……っ私、」
そこから先は、また、何も言葉が出てこなかった。