第7章 xxx 06.本番禁止
それはまるで、恋人が交わすような。
「怒んなよ」
「怒ります」
互いの額をぴたりとくっつけて囁き合う。吐息が混ざって、視線がぶつかって、触れるだけのキスをする。
「カオリさん」
「はい、岩泉さん」
「カオリって呼んでいい?」
「いいですよハジメちゃん」
「オイ、そこは一だろ」
岩泉さんの手で両方の頬を包まれて、彼の胸板にそっと手を添えて。暖かい、と思う。岩泉さんの腕のなかは、ひどく心地いい。
胸に淡く灯ろうとしているのは、きっと、この町で生き抜くのに最も邪魔な感情。
ああ、ツラいな。
この心地よさに沈めば沈むほど。
戻れなくなる。戻りたくないって思ってしまう。駄目だ。ダメだな、私。
この仕事、たぶん向いてない。
「……どした?」
私のまつげが俯き加減だったことに気付いて、岩泉さんが覗きこんでくる。何も返す言葉が見つからない。だから。
「なんでもない」
小さく言ってキスをした。
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