第19章 grand finale √parallel
黒尾が語った話はこうだ。
時を遡ること23年前。
彼の両親はめでたく結ばれ、人生を共にすることを決めたのだという。
幸せな結婚生活。
満たされた毎日。
あとは二人の愛の結晶を授かる日を待つだけだ。しかし、彼らにはなかなか子どもができなかった。
思い悩み、涙することが増えていく妻。苦しむ最愛のひとに掛ける言葉が見つからぬまま、ひとり冷たいベッドで眠りにつく夫。
そんな、ある夜のことだった。
「夫は、まあ要するに俺の親父だけど、不思議な夢を見たらしい」
ふわふわと水中をたゆたう感覚。
心地良さのなかで彼が見たモノは、一羽の凜々しいカラスだったという。
「カラスゥ!? またカラスかよ!」
「光太郎うるっさい」
「それで、その烏がどうしたんですか」
カラスは黒々とした瞳で夫を見つめた。そして、ゆっくりと、こう語ったのである。
【お前たちは、子を授かる。しかし、それは今ではない。然るべき日が訪れるまで、待つのだ】
予言じみた言葉。
普通ならただの夢と笑い飛ばしていただろう。だが、当時の彼にとっては救いにも等しい夢だった。
『ふふ……素敵な夢だったのね』
『お前、信じてないだろ』
『ええ、ううん、……信じるわ』
そうして待つこと5年。
長い年月ではあったが、黒尾夫妻は待望の第一子を授かったのである。