• テキストサイズ

(R18) Moulin Rouge (HQ)

第19章 grand finale √parallel



 誰だろう。少年は首をひねる。

 この辺じゃ見かけない顔だ。その身なりから察するに、自分と同じスラムの子どもなんだろうけど。


「……おまえ、だれ?」
 少年が低く問いかける。

「私? うんとね、カオリ!」
 答える少女は笑っていた。


 少女は言う。

「不思議なカラスさんを追いかけてたらね、道に迷っちゃったの」

「……カラス?」

「うん! こっちにおいで、そっちじゃないよ、こっちだよ、って私を呼ぶの!すごいでしょ!」

 何、言ってんだろ、この子。

 少年は呆れたように鼻を鳴らして、その場を立ち去ろうとした。

 不思議ちゃんにかまってやる義理などないのだ。面倒なことになる前に、さっさと逃げてしまうべきである。

 しかし、少女はそれをさせなかった。
 きゅっ、と少年の服を掴んで、縋るように瞳を潤ませている。


「……あのさ、何してんの」

「……な……いで」

「は? なに、よく聞こえな」

「ひとりにしないで」


 たかが、迷子、だろ。
 大袈裟なんだよお前。

 少年の頭に浮かんでは消えていく冷たい言葉。離せよ。触るな。俺に、近寄るな。

 そう思うのに。

 小さな手を振り払うことができない。

 まん丸な目いっぱいに涙を溜めて【ひとりぼっち】を恐れる姿。まるで、自分を見ているようで。


「……っ、もう!仕方ないなあ!」


 少年は掴んだ。少女の手を。

 乱暴ではあるが、しっかりと、離れないように。繋いだ手のひらは温かい。


「どのへんなの、お前ん家」

「うっ……え、と……川沿い、の」

「泣いてちゃわかんないよ」


 少年は言う。

 ほら、もう泣き止みなよ。
 大丈夫。ひとりじゃない。

 ぶっきらぼうだけど、その声音は優しくて。迷子の少女はつよく、つよく、彼の手を握り返したんだとさ。

/ 254ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp