• テキストサイズ

(R18) Moulin Rouge (HQ)

第18章 xxx ending √3:TETSURO



 どうして、俺ではないのかと。

 そう問いたい。

 なにも、彼女じゃなくても良かっただろうに。歳だって俺のほうが上なんだから、俺で、良かっただろ。

 まだ、彼女に見せたい物がたくさんあった。この世に溢れる美しい景色。彼女と一緒に行きたい場所が、たくさん、あったんだ。

 あと数年で定年だった。
 そしたら、もっともっと、彼女と居る時間が増えて、色んなところを旅しながら、残りの人生を共に歩むつもりだった。それがささやかな願いだった。

 でも、もう、叶わない。


「……おーい、黒尾、んな顔すんな」


 彼は言う。笑え。笑ってやれ。

 カオリは誰かが泣くことを嫌った。この町で、経験したことが原因になっているようだった。

 だから俺は何があっても泣かなかったし、一度だって、彼女に涙を見せたことはない。

 入籍したときも。
 結婚式を挙げたときも。
 子供を授かった日も。

 俺たちが愛し合った証を、その、小さな小さな身体を初めて胸に抱いた日も。

 俺は、笑ってた。下手くそな笑顔で。それでも、精一杯、笑ってたのに。


「無理、だろ、笑うなんて……だってカオリは、……もうすぐ、──……っ」


 声に、ならなかった。
 目の淵いっぱいまで溜まった涙は、今にもこぼれ落ちてしまいそうで。

 ごめん。カオリ。

 俺、今日だけは笑ってやれない。





「──泣くな黒尾鉄朗!!!」





 光太郎の、怒号にも似た声が響き渡ったのは、その刹那のことだった。

/ 254ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp