第18章 xxx ending √3:TETSURO
どうして、俺ではないのかと。
そう問いたい。
なにも、彼女じゃなくても良かっただろうに。歳だって俺のほうが上なんだから、俺で、良かっただろ。
まだ、彼女に見せたい物がたくさんあった。この世に溢れる美しい景色。彼女と一緒に行きたい場所が、たくさん、あったんだ。
あと数年で定年だった。
そしたら、もっともっと、彼女と居る時間が増えて、色んなところを旅しながら、残りの人生を共に歩むつもりだった。それがささやかな願いだった。
でも、もう、叶わない。
「……おーい、黒尾、んな顔すんな」
彼は言う。笑え。笑ってやれ。
カオリは誰かが泣くことを嫌った。この町で、経験したことが原因になっているようだった。
だから俺は何があっても泣かなかったし、一度だって、彼女に涙を見せたことはない。
入籍したときも。
結婚式を挙げたときも。
子供を授かった日も。
俺たちが愛し合った証を、その、小さな小さな身体を初めて胸に抱いた日も。
俺は、笑ってた。下手くそな笑顔で。それでも、精一杯、笑ってたのに。
「無理、だろ、笑うなんて……だってカオリは、……もうすぐ、──……っ」
声に、ならなかった。
目の淵いっぱいまで溜まった涙は、今にもこぼれ落ちてしまいそうで。
ごめん。カオリ。
俺、今日だけは笑ってやれない。
「──泣くな黒尾鉄朗!!!」
光太郎の、怒号にも似た声が響き渡ったのは、その刹那のことだった。