第4章 xxx 03.新規一名
「へえ、お医者さんなんだ」
「まだ卵だけどね。獣医だし」
「どうぶつに囲まれてる
孝支くん、きっとかわいい」
付着してしまった精液を拭うために、温冷庫から熱いおしぼりを一枚取りだす。私たちは同世代ということもあって、他愛ない会話でもそれなりの花が咲いた。
「かわいい禁止。俺、男の子」
その台詞が既にかわいいの。
つい言ってしまいそうになって、口を噤んだ。
熱々のおしぼりを軽く冷ましてから彼の身体を拭い、丁寧に後片付けをする。香るのは、タオルに染みこんだ消毒液のにおい。
タイマーがそろそろ鳴るという頃。
着替えを済ませた孝支くんに手を振って、部屋を出ていく彼を見送った。
これで、私のお仕事はおしまい。
もう二度と会うこともないのかもしれない。最後までやっぱり爽やかな彼の笑顔を記憶に刻んで、私は、壁に設置された内線電話に手を伸ばした。