第17章 xxx ending √2:KEIJI
「心配した、すごく」
頭上から降る京治さんの声。
恐る恐る顔をあげてみる。すると、さっきまでの怒った彼はもういなかった。ひどいクマ。寝てない、よね。きっと。
「……ごめんなさい」
そっと告げて。彼の頬に触れて。
人差し指でくすんだ目元をなぞる。京治さんが瞼を閉じる。心地よさそうな顔。ホッとしたような溜息。
「よかった。ちゃんとカオリだ」
「……ちゃんと?」
「また会えてよかった」
なにかを含むような物言いだった。
彼の真意が見えなくて、思わず、怪訝そうな顔になる。しかし、直後に聞いた京治さんの一言によって、その【小さな疑念】は吹き飛んでしまった。
「デートしようか」
ん、え?
突然のお誘いに面を食らう。一時停止する。しばらく思考が止まったままになって、ふと、単語の意味を理解した。
「デート!?」
「そう、お出かけ、しよ」
「お、……っお出かけ」
私、さっきから彼の言ったことを反復しかしてない。これじゃまるでオウムだ。阿呆の子だと思われる。いや、あながち間違いではないけれど。
「そんなに驚くこと?」
京治さんがおかしそうに笑う。
軽く握った拳を口元にあてる仕草。へにゃりと曲がった眉。京治さんって、こんなに素直に笑うんだ。
知らなかった。
「よし。じゃあ、行こうか」
ん、と手が差しだされて。握る。繋ぐ。指が絡まりあう。恋人繋ぎっていうんだよね、これ。なんか嬉しいな。
手に手を取りあって外に出たあと。
無人になった部屋の、恐ろしいまでに静まりかえった静寂を、私は知らない。