第17章 xxx ending √2:KEIJI
や ば い
玄関に入るなり浮かんだのはその三文字。すでにあったのだ。靴が。本革で、イタリア製の、京治さんのお靴が。
帰ってきている。
そしてたぶん、怒ってる、いや絶対。白布さんからもあれほど「外出は避けるように」って言われてたのに。
どうしよう。あれかな。
やっぱ簀巻きで海かな。
任侠映画さながらのシーンが脳裏を過ぎる。さながら、というか、京治さんにとってはリアルなんだよね。これは本格的に土下座の準備が必要かもしれない。
「ただいまー……」
抜き足、差し足。
忍者もびっくりするほどの忍び足でリビングに向かう。ドアから顔半面だけを出して、なかの様子を伺う。
あれ、おかしいな。誰もいない。
「おかえり」
「ほ、げゃー!出たー!」
「……ほげゃあ?」
振り向けばそこには京治さん。
私の奇声を聞いた彼は、なんとも形容しがたい顔で小首を傾げている。ちなみに私服だ。私服である。
初めて見るスーツ以外の姿。
ざっくり編みのオーバーサイズニット、だと……? その鎖骨は誘ってるんですか。袖からちょこっとだけ出した指先は誘ってるんですね。
では、いただきます。
ってそうじゃなくて。
「カオリ、お前、どこに行ってたの」
やっぱり怒ってる。
京治さん激おこだ。
雪女レベルに冷たい目してるし、声のトーンも超低い。お巡りさんと一緒にいました。言えない。言ったら氷にされて葬られる。
「ち、ちょっと、コンビニに」
もごもご。もそもそ。
しょうもない嘘をつこうとした私を、彼の、ガーネッシュの八番が塞いだ。海外のお香の匂い。京治さんの匂い。
あれ、私、抱きしめられてる。