第16章 xxx ending √1:TORU
モジモジする。非常にだ。
シャワーあがりの俺といえば、そりゃあもう、女子なら軒並み卒倒するほど艶やかで美しいはずなのに。
なんだこの格好は。
上下丈の足りてないスウェット。色はチャコールグレーだし、しかも、胸のとこに【Gorilla】って刺繍されてる。
な め て ん の か
「あのさ……わざとでしょ、これ」
「あ、バレた?」
「うんブッコロ☆」
キッチンで料理している背中をとっ捕まえて、脇腹をくすぐって、せめてもの仕返しをする。
ころころと笑う彼女。
つられて、俺も笑う。
芽生える感情は、くすぐったい、何だろうこれ。感じたことのないキモチ。温かい。暖かい。
「……っふ、え……ぶぇぇ」
「あ、また泣く。徹くんの泣き虫」
「……どうせ泣き虫ですよ」
小さなアパートの、小さなキッチン、小さなカオリの背中。力をこめれば折れてしまいそうな彼女をぎゅ、と抱きしめる。
香るのは卵焼きの匂い。
ほかほか、幸せの匂い。
初めて感じる。誰かに触れることが、誰かに受け入れられることが、こんなにも嬉しい。愛おしい。
「ねえ、……カオリ」
「? なあに」
「……やっぱなんでもない」
もっとカオリに触りたい。
その一言がどうしても言えなかった。どの口がそんなこと言えるんだ、って、気が引けちゃって。
手際よく卵をひっくり返す彼女。
そのうなじに顔を埋めて、情けなく嘆息する。