第16章 xxx ending √1:TORU
愛されたかった。
「……愛してほしかった」
大好きだったんだ。母さんのこと。ずっとずっと憧れてた。母の温もり。注がれる無償の愛。
「触れてほしかった。抱きしめてほしかった。笑いかけてほしかった……徹、愛してるよ、って、……言ってほしかった……!」
いつの間にか覚めた夢。
感じる、誰かの温もり。
あったかいな。ふわふわ。心地いい。なんだか良い匂いもする。もうちょっとこのまま、泣いていたい。
「母さっ……行かな、いで、ひとりにしないで……っ俺、いい子にするから、……だから!」
「ひとりじゃないよ」
突然聞こえた声。優しい声。
慈しむようなその声音に意識がクリアになる。
瞳に映りこんだ【彼女】は泣いていて、でも、笑っていた。涙で顔をくしゃくしゃにして、笑っている。
「徹くんは、ひとりじゃない」
彼女は言う。
私がいる。ここにいる。皆があなたから離れていっても、世界中があなたの敵になっても、私だけはここにいるから。
だからもう、大丈夫、と。
「……ど、して……?」
彼女に負けないくらいグズグズの鼻声で聞けば、カオリは、俺を抱く腕に力をこめて言った。
「一緒だから」
「……いっしょ?」
「そう、一緒」
ひとつずつ、ひとつずつ。
知っていく、彼女のこと。
彼女もスラムの生まれだということ。貧しく辛い幼少期の思い出。浮気性の母。父親の自殺。学校に行くことすら出来ず、蔑まれつづけた日々。
そして、唯一の肉親であった母に、つい最近捨てられたこと。
ああ、そうか、そうだったんだね。
「俺と、おんなじ……カオリも、……ひとりぼっちだったんだね」
そう言って、俺は、おずおずと彼女の背中に腕を回した。