第16章 xxx ending √1:TORU
ある日のことだった。
きゅ、と握りしめた手。母は珍しく俺の手を引いていた。手を繋いでいたのだ。あの、母と。
嬉しかった。幸せだった。
今までの辛かった日々なんて、ぜんぶ、嘘だったんじゃないかって。本気でそう思った。
綺麗に着飾った母。
その横顔は、どんな絵本でみるお姫さまよりも美しい。世界でたったひとりのお母さん。俺だけの大切なひと。
クリスマスソング響く商店街を、彼女に連れられて歩く。
ショーウィンドウの向こうに見えたキラキラ。真っ白に輝くショートケーキを、俺は、きっと一生忘れない。
「さ、徹、新しいママにご挨拶して」
最高で最低のクリスマスプレゼントだったよ。ほんと、死ぬまで忘れられないくらいね。
母が最初で最後にくれた贈り物は、新しい母親と、新しい父親。裕福で優しく穏やかな、子供のいない老夫婦だった。
まるでおとぎ話みたいだ。
子供ごころにそう思ったのを覚えてる。貧しかった少年は、心優しいおじいさんとおばあさんに拾われて、幸せに暮らしましたとさ。
ネバーネバーアフター。
偽りのハッピーエンド。
俺は要するに母に売られて、捨てられて、厄介払いされただけ。
ひどい母親だった。痛いことばっかされてた。たまにしてくれた料理は超下手くそだったし、男ばっか連れこんでたし、いつもタバコ臭かったけど。だけど。
それでも、──愛してたんだ。