第16章 xxx ending √1:TORU
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「徹!早くこっちに来なさい!」
夢を見ていた。
それは遠い日の夢。
忘れじの、思い出。
舞台は古ぼけた四畳半。ボロボロのアパートだ。物が散乱した部屋の隅で、痩せた少年が肩を震わせている。
纏うのは薄汚れたトレーナーと、糸のほつれた半ズボン。そうそう。まともに着れる服、これしか持ってなかったんだよね。
「もう、や、めて……母さん」
少年の顔に浮かぶのは恐れだ。
それは痛みに対する恐怖。いやだ。もう痛いのはいやだ。なんで、どうして母さんは、俺に痛いことをするの。
「全部、アンタのせいよ」
母であるはずの彼女は言う。
酒に酔って、ドラッグに溺れて、虚ろな目で吐き捨てる。徹、アンタのせいよ。アンタさえ居なければ。アンタなんか孕んでいなければ。
そして今日も、最愛であるはずの息子に、700℃の火を押しあてるのだ。
「ひ、ぃっ……痛ああっ!」
やめて!母さん!いやだ!
悲痛な叫びは届かない。血と同じだけ流す涙は、見向きもしてもらえない。幾度となく肌を焼いた母のタバコ。もう、数えることすら忘れてしまった。
世界にたったひとりの母。
この世で一番俺を愛してくれるはずの【女性】が、これ。いくら愛してほしいと願っても、その願いは、永遠に叶うことがなかった。