第16章 xxx ending √1:TORU
私たちを乗せたタクシーは、裏道という裏道を駆使して進む。気付けば辺りは目的地周辺。私の住むアパートが見えてくる。
ちょっと多めのお金を支払うと、運転手さんは、無言で徹くんを運ぶのを手伝ってくれた。
「ありがとうございました」
軽く会釈してドアを閉める。
そのままかけ足でキッチンに飛びこんで、空のコップと、水で満たされたデカンタを掴む。
勢いよく踵を返した先。
ソファに寝かせた徹くんの傍らに膝をついて、コップに水を注いだ。
「徹くん、お水……飲んで」
彼のうなじに手を添えて補助をする。しかし、うまく飲むことができない。
唇の両端から漏れる水。
徹くんは微かに眉根を寄せて、いやいや、と首を横に振った。
「……だめ、飲むの、ほら」
自分の指を水に浸す。
それを彼の口内に塗りつける。少しでもいい。水分をとらないと死んでしまうから。
何回かその行為を繰りかえす内、徐々にではあるが、徹くんの呼吸が安定してくる。
よかった。ひとまずは安心だ。
ホッと胸を撫でおろす。
よほど身体的に疲弊していたのだろう。落ちつきを取り戻した彼は微睡んで、やがて、静かな眠りへと落ちていった。
「……おか、さん……母さん、」
寝言、だろうか。
母さん。たしかにそう言った徹くんは、やっぱり、泣いていた。線の細い身体を丸めて。顔をくしゃくしゃにして。
幼い子どものように泣いている。
「母、さ……行か、な……いで」
──ああ、そうだったのか。
徹くんも、私と一緒なんだ。