第16章 xxx ending √1:TORU
ぐらり。揺れる身体。
後方に向かって倒れる自分に気付く。しかし、直感的に理解したときにはもう、背中がコンクリートに打ち付けられたあとだった。
のしかかる重みは、彼。
「……っ、徹くん……?」
背面に感じる鈍痛に耐え、声をかける。何も言葉が返ってこない。ぐったりと私にもたれかかる徹くんは、全身が小刻みに震えていた。
色の抜けおちた頬。ガチガチと鳴る奥歯。これ、やばい、救急車。いくつもの単語が猛スピードで浮かんでは消えていく。
中毒だ。助けなきゃ。
死、水、どうしよう。
無我夢中でスマホを握った。
しかし、寸前で躊躇して119に発信できない。ドラッグによる発作だとバレたら警察沙汰だ。
「……っもしもし!?」
私が電話したのは、とあるタクシー会社。白布さんから貰った連絡先一覧に記載された番号だった。
【有限会社 伊達交通】
深緑色のミニバンタイプ。
やってきたのは大柄な男。
「……目的地」
その手の客に慣れっこなのだろう。
外国人のような様相をした運転手は──ネームプレートには青根と書かれているが、ぶっきらぼうに送り先だけ聞いて、あとは口を開かなかった。
キュル、とタイヤが鳴る。
ゴムの焼けるような匂い。急な発進のせいで座席に背が押しつけられる。
頻回に浅い呼吸をする彼。
徹くんは、私の手をぎゅ、と握って離そうとしない。その縋るような仕草に、なんだか胸が苦しくなった。