第15章 extra xxx 003
くるり。黄色い目が振りかえった。
「うにゃー……」
気怠げに鳴いてジッと私たちを見る仕草は、まるで、ついてこいと言っているかのようだった。
藁にも縋りたいのだ。
神頼み猫頼みである。
黒猫さんと同じ顔をした黒尾の服の裾を引っぱって、歩きだす。すると、小さな彼も再び歩きだした。
「お、おい、どこ行くんだよ」
「彼がついてこいってさ」
「は……? ついに沸いたかお前」
「失礼千万か。クソ尾のくせに」
懲りずに軽口(悪口)を叩きあって、夜の海岸を、猫に連れられるまま歩く。ザザ、ザザ、さざ波の揺れる音は絶えることがない。
まん丸なお月さま。まん丸な球体展望室。ふたつの丸が、私たちの珍道中を見下ろしていた。
「え、……ここ、って」
「研磨の家じゃねーか」
到着した場所は他でもない。
夜空に向かって高く伸びるツインタワーマンション。洗練されたそのエントランスホール、の手前に設置された、オートロックシステム。
ぴかぴかに磨かれた自動ドアの前で、私たちは呆然と立ち尽くしていた。
「う、にゃあ」
くしくしと顔を洗う黒猫さん。
今更になって猫が道案内なんかできるワケないじゃん、と、至極当たり前のことを後悔しはじめる。
無駄に歩かされた黒尾からは殺意の波動を感じるし、これはマジでヤられるかもしれない。
「ちょっと、そこ、邪魔なんだけど」
悶々とした意識を撃ち抜かれた。
聞き覚えのある声。生意気な声。振りかえると、ほら、やっぱり。そこにはランニングパンツ姿の毒舌モデルが立っていた。