第15章 extra xxx 003
不安と絶望と疲労感。
全部がない交ぜになって目頭に熱いものを込みあげさせる。このまま、研磨が見つからなかったらどうしよう。
あの日、ラブホ街で出会った彼。
研磨が声をかけてくれて本当に救われた。なのに。なのに、私は、彼になにもしてあげられない。
その涙を拭ってあげることも、震える手を握ってあげることも、見つけてあげることすら、できない。
「……っ、研磨……ごめ、」
限界まで溜まった涙がポロ、と零れようとした、そんな折だった。
にゃー……
どこからともなく聞こえた鳴声。
暗闇に目をこらすと、クルーズ船の券売機の影から、一匹のネコが現れる。
まっくろな黒猫。
夜の海と同じ色。
「ぶ、にゃー」
ブサイクだ。超、ブサネコである。
しかしそれがまた可愛くもあり、所謂、ブサカワなのだけれども。この目付きといい。この不貞不貞しさといい。
「なんか、似てるね、……黒尾に」
「オイ何だその哀れみの目はオイ」
「いやむしろ可哀想なのはネコちゃ……あ、うそ、嘘ですからグーはやめよう落ちつこう」
私たちを眺める黒猫さん。
その呆れたような視線は「茶番だな」とでも言いたげだ。ほんと、黒尾にそっくり。
二人と一匹で見つめあうこと数秒。
黒猫さんはくわ、と小さな口であくびをして、おもむろに立ちあがった。
尾っぽをフリフリ。ゆるり歩いて暗闇に溶けていこうとする。