第15章 extra xxx 003
しかも、だ。
桟橋にはお菓子の包み紙やら、甘めのカクテルの空瓶やら、研磨を思わせる物が散乱している。
その内のひとつを黒尾が拾いあげた。
「これ、……研磨が好きなやつ」
ほのかに香るアップルフレーバー。
可愛らしいラベルが貼ってあるが、アルコール度数の表記は10%を上回っている。
それが何本も転がっているのだ。
頭を過ぎるのは最悪の事態。
冬の海。極寒の海。最後に聞こえた、雑音が、水面に落下したときの音だったら……?
「……──研磨……ッ!」
半狂乱だったと思う。
取り乱して海に飛びこもうとする私の首根っこを、寸前で、黒尾の大きな手が引っ掴んだ。
凄まじい力で後方に引っぱられる。尾てい骨が地面に打ちつけられて、思わず顔が歪む。
「死ぬ気か!馬鹿野郎!」
ぺち、頬に触れた熱は、黒尾の掌。
おかしくなるくらい優しいビンタだった。直後にぎゅうっ、と頬をつねられて、その痛みで正気に戻る。とても痛い。
「危 ね え だ ろ う が」
「……ご、ごめんなひゃい」
「ん、分かれば宜しい」
解放された頬を涙目になりつつ摩る。
おかげで私は落ちつきを取り戻したけど、事態が好転したワケじゃない。研磨はまだ見つかっていないのだ。