第15章 extra xxx 003
『あ、れ、カオリ……どうして?』
研磨の第一声がこれだった。
電波が悪いのか、ザザ、という雑音が混ざっていて良く聞こえない。
けれど、わずかに感じる。
私も私でいまだに鼻声だが、研磨もまた然り。今頃どこかで泣いているのだろう。もしかしたら、また親御さんと揉めたのかもしれない。
そう思うと気が気じゃなかった。
「研磨、……大丈夫?」
そっと、問いかける。
黒尾が身を屈めて、スマホの背中側で耳を澄ますのが分かった。コーヒーの香り。黒尾はいつも同じ匂いがする。
『……大丈夫、じゃ、ない』
たどたどしい返事だった。
加えて、ふえ、と研磨が泣きだす声が聞こえる。聞こえてしまったものだから、黒尾が血相変えて電話を奪おうとしてくる。
(よこせ!俺が話す……!)
(黒尾はすぐ怒るからだめ!)
(あァ……!?)
スマホの底面についたマイクを指で押さえて、ヒソヒソ声で言い争う。黒尾はなかなか諦めてくれない。
貸さないと犯すぞテメエ、とか、とんでもない暴言だなオイ。不良警官め。
「ねえ研磨、いま、どこにいるの」
『……海浜、……こ、園』
「海浜? お家の近くの公園?」
ぐいぐい圧をかけてくる黒尾の頬を押し返しつつ、研磨の返答を待つ。
しかし、次の瞬間だった。
ガザザザ──……ッ!
耳を劈いたのは原因不明の雑音。しかも、そのまま通話が途絶えてしまう。ツー、ツー、ツー。無機質な切電音。不安が急激に膨れあがる。
黒尾と視線がぶつかった。
沈黙。決断。重なる意思。
「黒尾、行こう!」
「ったりめーだ!とっとと乗れ!」
ヘルメットが放り投げられる。バイクのエンジンが低く唸りをあげる。巻き起こる噴煙。目指すは海沿いの公園だ。
こうして、私たちは冬空の下に飛び出したのだった。