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(R18) Moulin Rouge (HQ)

第15章 extra xxx 003



『あ、れ、カオリ……どうして?』

 研磨の第一声がこれだった。
 電波が悪いのか、ザザ、という雑音が混ざっていて良く聞こえない。

 けれど、わずかに感じる。

 私も私でいまだに鼻声だが、研磨もまた然り。今頃どこかで泣いているのだろう。もしかしたら、また親御さんと揉めたのかもしれない。

 そう思うと気が気じゃなかった。

「研磨、……大丈夫?」

 そっと、問いかける。

 黒尾が身を屈めて、スマホの背中側で耳を澄ますのが分かった。コーヒーの香り。黒尾はいつも同じ匂いがする。


『……大丈夫、じゃ、ない』


 たどたどしい返事だった。

 加えて、ふえ、と研磨が泣きだす声が聞こえる。聞こえてしまったものだから、黒尾が血相変えて電話を奪おうとしてくる。

(よこせ!俺が話す……!)
(黒尾はすぐ怒るからだめ!)
(あァ……!?)

 スマホの底面についたマイクを指で押さえて、ヒソヒソ声で言い争う。黒尾はなかなか諦めてくれない。

 貸さないと犯すぞテメエ、とか、とんでもない暴言だなオイ。不良警官め。

「ねえ研磨、いま、どこにいるの」

『……海浜、……こ、園』

「海浜? お家の近くの公園?」

 ぐいぐい圧をかけてくる黒尾の頬を押し返しつつ、研磨の返答を待つ。

 しかし、次の瞬間だった。

 ガザザザ──……ッ!

 耳を劈いたのは原因不明の雑音。しかも、そのまま通話が途絶えてしまう。ツー、ツー、ツー。無機質な切電音。不安が急激に膨れあがる。

 黒尾と視線がぶつかった。
 沈黙。決断。重なる意思。
 

「黒尾、行こう!」

「ったりめーだ!とっとと乗れ!」


 ヘルメットが放り投げられる。バイクのエンジンが低く唸りをあげる。巻き起こる噴煙。目指すは海沿いの公園だ。

 こうして、私たちは冬空の下に飛び出したのだった。

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