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(R18) Moulin Rouge (HQ)

第15章 extra xxx 003



 香るのはガーネッシュの八番。

 黒で統一された殺風景なここは京治さんの部屋だ。意識を取り戻したとき、私は彼のベッドに寝かされていた。

 しかしそこに家主の姿はなく、代わりにいたのが彼、白布賢二郎。


『あの男性でしたら病院に運ばれましたよ。命に別状はありません。ただ、……言葉を発することが出来ないようで』


 告げられたのは残酷な事実だった。

 岩泉さんの容態。失語症という単語。それは一時的な症状かもしれないし、一生、治らない場合もあるということ。

「それでは俺はこれで」

「……ありがとうございました」

「いえ、仕事ですから」

 数日分の食事と着替え。数枚の一万円札。何かあったときの連絡先一覧。京治さんからの伝言。

 それらを置いて彼は去る。

 ひとり残った部屋で、白布さんから預かったメモ用紙に目を落とした。


【温かくして寝ること】


 手のひらに収まるサイズの小さな紙には、たった一言、京治さんの字でそう書かれている。

 どうして、責めないの。
 どうして、怒らないの。

 私の浮ついた態度がこの結果を招いた。岩泉さんも、京治さんも、徹くんのことだって。きっと、たくさん、傷つけた。

『お前みたいな尻軽女ってさ、俺、殺したいくらい大嫌いなんだよね』

 そう言われても仕方ないことをしたのは、私なのに。

 ぱた、ぱた、ぱた

 メモを濡らす水玉。
 黒いインクが滲んで、文字がふやけて、薄墨色になって広がっていく。

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