第14章 extra xxx 002
蛇のそれに似た縦細い瞳孔。
川西は、ただ、ジッと見つめていた。
痛みと快楽の狭間で悶え苦しむ及川徹を。たったひとりの妹を死へと至らしめた男の痴態を。
その姿は、蛇そのもの。
息を潜めて、待っている。獲物の喉元に食いついて絶命させる瞬間を、今か、今かと待ち侘びているのだ。
「んんっ、あ、ぁ……ひああっ!」
「女みたいな声出すなよ。見苦しい」
「……っ! ──……!!!」
ほぼ錯乱状態であったはずの及川が、なぜか“女”という罵倒にだけは反応を見せた。キッ、と眉尻を吊り上げて、川西を睨みつけている。
「は……? なに、その目……お前自分の立場分かってんの……?」
濃い怒気を孕んだ声音だった。
川西は拳を振りあげる。渾身の力で殴りつけてやろうとして、しかし、直前で咄嗟に腕を引っこめた。
「ん、ぐ……っう、うう」
踏みつけたのだ。後ろで静観していた赤葦が、その靴の裏で、及川の顔面を。頭蓋骨が軋むほど強く踏みつけている。
そこに容赦など存在しない。
この町で一位二位を争うとも言われた【トオル】の美麗な顔は、血と、涙と、泥で、見るも無惨に汚されていた。
「身の程を弁えろ……クズが」
赤葦は罵声を強調するようにして踵をグリグリと動かす。つう、及川の裂けた唇から、一筋の赤が漏れた。