第4章 xxx 03.新規一名
さあ、お仕事をはじめましょう。
各部屋に設置された鉄製の簡易ラック。予備のタオルやらオプション用のおもちゃが置いてある影に、店のマニュアルが置いてあった。
そのなかの営業トーク一覧を思い出しつつ、初めてのお客さんの前で軽く微笑んでみせる。
「今日は来てくださって嬉しいな。たくさん頑張るので、いっぱい気持ちよくなってくださいね」
「よっ、よろしく、お願いします」
ベッドに腰掛けてかしこまる彼は、まったく視線を合わせようとしない。風俗は初めてなんだろうか。
『ご新規1名ね』
さっきの光太郎の言葉を反芻する。
新規ということは、簡単に言えば【指名】を獲得できるチャンスということだ。この爽やかな彼に気に入ってもらえれば、次来たときに指名してもらえて【指名料】が店に入る。
そのうちの何%かは私のお給料になるので、新規の客を相手にするときは慎重に仕事をしなければならない。らしい。
「緊張、しちゃいますよね。
私もすごくドキドキしてる」
そっと彼の隣に腰掛けて言うと、大きくてまん丸な瞳が、わずかに綻んだ気がした。