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(R18) Moulin Rouge (HQ)

第3章 xxx 02.及川徹



 光太郎の言う「心配」はもちろん店の商品としてなんだろうけど。それでも、たしかに胸に芽生えたのは温かさだ。

 幼いころに父に見捨てられ、たったひとりの肉親だと思っていた母は男と蒸発。しかもそれが二週間前。

 そんな境遇の私にとって、光太郎のストレートな言葉はなんだかくすぐったくて。ちょっとだけ頬に熱があつまった。

「よし、店戻るか!」

「うん。戻ろう」

 狭くて汚くて、ピンクチラシの貼り紙だらけのエレベーターに乗りこむ。

 光太郎がそのうちの一枚を凝視してたんだけど、それが精力増強剤の類だったので、思わず真顔になった。

「それ以上勃たせてどうすんの」

「抜かずの3発ってさ、
男のロマンだと思うわけ」

「へえ……そうなの」

「だからさ、今度俺とこれ使って
ブッ飛ぶまでセックスとか。どうよ」

「……あんた本当にいつか
オーナーに沈められるわよ」

 階数表示が6になるまでの間、彼の下衆なお誘いは延々続いた。こんな色気のない誘われ方したのは初めてである。

 フロアに戻ってお互いの仕事に向き直ると、直後にエレベーターが動いて次の客がやってきた。

「マリンさん、ご新規1名ね」

 本日二度目の光太郎の営業スマイル。
 通された客は、灰がかった髪に涙ぼくろが特徴的な好青年だ。よかった。初めての仕事はオヤジ相手じゃないらしい。

 それにしても、マリンって私の源氏名なんだろうか。
 いつの間にか付けられていた第二の名前。仮面を被って過ごす日々が、今、はじまろうとしている。










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