第14章 extra xxx 002
男はひどく衰弱していた。
近付いて見てみればそれは、たしかに岩泉という男で、赤葦は怪訝そうに眉をひそめる。
この男はクラブキャッスルの幹部だったはずだ。なぜ、及川の腹心とも言える男がここに?
状況から見るに恐らく彼も被害者。
どこを見ているのか分からない虚ろな瞳に、渇ききってカサカサの唇。
最近町で出回っているドラッグだ。間違いない。
赤葦にはその確信があった。
この町に横行する罪はすべて、その危険なクスリさえも、白鳥沢組の管轄内で取引されているのだから。
「おい、アンタ、……大丈夫か」
彼を襲うのは自責の念だ。
ドラッグ自体を売り捌いたのは赤葦ではないし、それを使うよう強要したのも、もちろん彼ではないのだけれど。
それでも申し訳ないと思った。
どうしようもなく悲しかった。
赤葦はホテルに備えつけの冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、そっと、岩泉の口元を潤してやる。
その様子を見守るようにして眺めていたカオリだったが、いつの間にか意識を失ってしまったらしい。
よほどの苦痛を味わったのだろう。
彼女も、岩泉も、その顔に無数の赤痣ができている。筋肉を強く硬直させた際に、皮膚の下にある毛細血管が切れたためだ。
例えば歯を食いしばったとき。
例えば腹部に力を籠めたとき。
二人が服を纏っていなかったことも含めて、何があったのかは容易に想像ができる。
「……あ、太一さん、俺です」
恨めしいほどの朝日を受けて煌めく摩天楼。広大な公園と隣接するように建造されたハイタワーホテル、その一室。
「やっぱり俺にやらせてください」
響くのは、赤葦の、冷えた声。