第12章 xxx 11.幽閉
一枚、また、一枚。
液体中をゆらり揺蕩うコインが水位を押し上げていく。
「カオリ、お前はどこから来たの」
「……下町の端っこから、です」
「スラムの子か。苦労したんだな」
交わす言葉はどれも短い。
コインが水面に差しこまれて、水底へ落ちるまでの、刹那的な会話だった。
一定のリズムで刻まれる会話は心地よく、つらい過去も、生い立ちも、彼には隠そうという気が起こらない。
「赤葦さんは、……あ、いえ」
「知りたい? 俺のこと」
彼がそう言うのと同時だった。
表面張力を失ったお酒はついに溢れ、カーペットにぷっくらとした水溜まりをつくる。
ゆっくりと浸みこんでいく液体。
広がっていくシミを指でなぞって、赤葦さんは「俺の負け」と小さくつぶやいた。
「罰ゲーム、なにがいい?」
囁かれる。掠れた声で。
何を言ってもきっと彼は応えてくれるのだろう。でも、何を言えばいいのか。何を、聞けばいいのか。
何が正解なのか分からないまま。
私がした選択は、やはり、彼から目を背けることだった。
怖いのだ。本当の彼を知るのが。
赤葦さんのプライベートに踏みこんだら、二度と、元の生活には戻れない気がして。だから──
「そ、それっ……フルーツ」
「ん?」
「アーンさせてください!」