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(R18) Moulin Rouge (HQ)

第12章 xxx 11.幽閉



 一枚、また、一枚。
 液体中をゆらり揺蕩うコインが水位を押し上げていく。

「カオリ、お前はどこから来たの」

「……下町の端っこから、です」

「スラムの子か。苦労したんだな」

 交わす言葉はどれも短い。
 コインが水面に差しこまれて、水底へ落ちるまでの、刹那的な会話だった。

 一定のリズムで刻まれる会話は心地よく、つらい過去も、生い立ちも、彼には隠そうという気が起こらない。

「赤葦さんは、……あ、いえ」

「知りたい? 俺のこと」

 彼がそう言うのと同時だった。
 表面張力を失ったお酒はついに溢れ、カーペットにぷっくらとした水溜まりをつくる。

 ゆっくりと浸みこんでいく液体。
 広がっていくシミを指でなぞって、赤葦さんは「俺の負け」と小さくつぶやいた。

「罰ゲーム、なにがいい?」

 囁かれる。掠れた声で。

 何を言ってもきっと彼は応えてくれるのだろう。でも、何を言えばいいのか。何を、聞けばいいのか。

 何が正解なのか分からないまま。
 私がした選択は、やはり、彼から目を背けることだった。

 怖いのだ。本当の彼を知るのが。
 赤葦さんのプライベートに踏みこんだら、二度と、元の生活には戻れない気がして。だから──

「そ、それっ……フルーツ」

「ん?」

「アーンさせてください!」

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