第12章 xxx 11.幽閉
カラン、と音を立てるのは氷だった。
片手に収まるサイズの彫刻グラスには、夕くんが届けてくれたお酒が注がれている。
「宅配だから大したのないけど」
乾杯を促すように掲げられる赤葦さんのグラス。
彼の飲み口より指一本分下げたところに、そっと、自分のそれを合わせる。カチンッ……小さな音を鳴らして硝子がぶつかった。
「口に合う?」
「美味しい、デス」
「そう。よかった」
赤葦さんは静かな人だと思う。
それはまるで深いところを流れる川のように緩やかで、穏やかで、気紛れだ。
琥珀色の液体を受け入れる整った唇。男らしく浮き出た喉仏。お酒を飲む姿がこんなに絵になる人、他にいるだろうか。
ぽやんとして見つめていると、私の熱視線に気付いたらしい。グラスに口を付けたまま、赤葦さんが困ったように笑った。
「………見すぎ」
私のほっぺたを突つく彼の指。
腕を伸ばしたことで捲れたシャツの袖口から、白くて細い布が覗いている。包帯、だよね。たぶん。
どうして……怪我?
そうは思ったけど、気付かない振りをして目を逸らす。
彼の仕事はこの町のお金を動かす裏稼業だし、それに、あくまでお客さんだ。
余計な詮索は無用。場合によっては失礼に当たってしまう。
訝しげな顔になってしまわないように、ぎゅっ、と表情筋を引き締めた。