第1章 彼と初めて出会った日の事
扉を閉じてイヤカフでフェリシアーノに連絡を取ってみる。
ざわざわとしたノイズは周りの喧騒もあいまって酷いものになっていた。
「おい、状況は?」
『うん、ちょっと酒場で女の子に話を聞いてるよ』
「抜け駆けしてんじゃねぇ!バカ弟!」
『ち、違うよ!さっき兄ちゃんが連れて行った子のお友達だよ!大人のベッラじゃないよ!』
「…何か分かったら連絡寄こせ。ただ、その子には…」
『大丈夫。まだ下に来て日が浅いみたい』
そっと自分の部屋に戻りながら会話を続ける。
日が浅いとなるとダウンタウンから下町に連れて来られる理由なんて知らないだろう。
それなら何も知らずにお別れしたほうが彼女のためかもしれない。
「とにかく、後でそっちに戻る。…そういえばさっきの男は?」
『死体屋が駆けつけてくれたからもう片付いたよ』
「殺したのか?」
『ううん。息はあったけど俺に話し掛けてきたのが医者じゃなくて死体屋だったから…』
「そうか。それはアントーニョに報告するぞ。いいな?」
『うん。兄ちゃんが良いなら』
「…金貨二枚くすねとけ」
『えへへ。分かったよ』
そう言って通信を切ると、ベッドに横になって一眠りすることにした。
全く災難な日だ。あの様子だと今日は誰も捕まえられないだろう。
あの店は酒や音楽でも十分楽しめるが華がないと思うと寂しくなる。
急に味気なくなった週末を嘆きながらゆっくりと目を閉じた。