第1章 彼と初めて出会った日の事
その扉がひとりでに派手な音を立てて開くと中から私と同じくらいの東洋人の男の子が出てきた。
「なんだよ、今日の仕事は終わりじゃなかったのか?」
「新入りだ。お前が面倒を見ろ。いいな?面倒を起こせじゃねぇ。面倒を…」
「見ろ。だな?ったく、ガキ扱いしやがって…」
「十分ガキだろうが」
「ケッ、ついて来いよ」
彼は私にそう言うと運搬用の扉の前に立った。
すると私のかばんを先にエレベーターに乗せて、扉の前でひざをついた。
両手で私の片足を支えて少し高めのその扉に入る手助けをしてくれた。
中でひざを抱えると、彼はこの空間からはみ出したスカートをさりげなく手で直して扉を閉めた。
「スカートの裾、気をつけて持ってろよ」
「分かった」
彼の忠告どおりに裾をまとめるとエレベーターは動き出した。
三流の貴族の家にも食事運搬のエレベーターはあったがそれに乗るのは初めてだ。
運ばれる食事もこんな不安に駆られていたのだろうか。
しばらくしてついた部屋は恐らく彼の自室だった。
彼は手を休めることなくトランクボックスの中を引っ掻き回したり、空のトランクボックスを持ってきたりしている。
「俺はリョウ。お前は?」
「私はカエデ。ここは貴方の部屋なの?」
「そうだ。こっちのベッドは俺の、お前のは俺の右のやつかその隣。そのかばんは何が入ってるんだ?」
「着替えくらいよ」
「じゃあ、水筒とガスマスクは明日サディクに頼んでもらってきてやるよ。あと、ここだとスカートは止めたほうがいい」
「…分かったわ。でも私、ズボン持ってないの」
「俺のお古しかないけど、しばらくはそれで我慢しろ。…お前いくつだ?」
さっきから気になっているけど、彼にきっと女性に対する教養はないようだ。
手持ちの荷物を聞いたり、年齢を聞いたり…。
それでも、ここで生きていくということはこれが当たり前なのかもしれない。慣れていかないと…。
「……、明日で11よ」
「そうか。俺と一緒だな」
「貴方も明日が誕生日なの?」
「キグウって奴だな。…あ、誕生日おめでとうカエデ」
私は自分の時計を確認するとちょうど12時を回っていた。
ここからがきっと私の新しい人生の始まり…よね?
「貴方こそ、誕生日おめでとうリョウ」