第1章 彼と初めて出会った日の事
Side:キク
私が彼と出会ったのはお坊ちゃんに散々せがまれて旦那様に内緒で地下街へ出かけた日の事でした。
何かに急かされるように歩いていくお坊ちゃんを何度か呼び止めながら着いた場所は路地かも分からないほどに汚れきった場所です。
地上には三つの区画があり、その下に迷路のように張り巡らされた地下街はおのずと後ろ暗い者たちが集まったのです。
過去に何度か来たことはありましたがさらに度を増したように思えました。
お坊ちゃんはその暗がりを必死に見つめて何かを探しているようです。
「何を探されているのですか?」
「黒猫だよ。変な服を着た猫を前に見つけたんだ」
貴族街ではめったに見ませんが、私のようなダウンタウンを知っているものだと"服を着ている猫"がどのような存在かはすぐにわかります。
内密な仕事。情報を盗んだり、スパイ活動を補助する職業の人間を補佐する役目の動物。
その飼い主は間違いなく法的に許されない事を生業としている人物でしょう。
「お坊ちゃん、いけません。その猫は…」
「あ、いた!」
私の忠告など耳に入っていない様子のお坊ちゃんは明るみの方へ走っていきました。
その先を目で追うと、物陰に潜むように一匹の猫が佇んでいます。
その猫はお坊ちゃんが近寄るのを確認するとゆらゆらと尻尾を揺らめかせながら歩いて行ってしまいます。
私はお坊ちゃんと一緒に猫の行く先へと向かうと遠くから少しずつ喧噪が響く所へと出ました。
「いいですか?猫を追いかけたら終わりですよ?」
「うーん…、本当は猫と一緒にいた奴と会いたいんだぞ」
「いけません。ここはお坊ちゃんが思っている以上に危険な場所なのですよ?」
「だからキクが付いていてくれるんじゃないか!それと、お坊ちゃん呼びは止めてくれよ。アルでいいってば」
「では、アルフレッド君。ここからは必ず私の言うことを聞いてくれると約束できますか?」
「もちろんさ!」