第4章 【裏】私だけのひと。 ~明智光秀~
「わぁ! 大きな南瓜ですね」
「これ、美味しく料理してくれる?」
「もちろんです! 秀吉様、ありがとうございます」
「女の子は南瓜好きだって聞くけどやっぱり本当なの?」
「そうですね…嫌いな人は今のところ聞いたことありませんね」
「やっぱりそうなんだね。…じゃ、楽しみにしてるね」
「お任せください」
にっこりと柔らかな笑みを浮かべる秀吉に琴子は胸を張って応えた。
「それじゃ、おやすみ」
「はい、おやすみなさいませ」
颯爽と去っていく後ろ姿を見送りながら、琴子は軽く頭を下げた。
(南瓜だ…久しぶりだなぁ…甘く煮付けるのが美味しいよね)
あ、でも甘味にするのもいいなぁ…などと考えれば、自然と顔がほころんだ。
光秀の元で書簡の整理をしたり書付の手伝いの仕事をするのも悪くないが、やはり料理をしたり献立を考えているときが一番楽しい。
琴子は鼻歌交じりに南瓜を抱えて運ぶ。
その様子をまたもや光秀がこっそりと伺っていることなど、琴子は知りもしなかった。
(あぁ、すっかり遅くなっちゃった…)
琴子は光秀のために淹れたお茶をこぼさぬ様に慎重に、しかし大急ぎで運んでいた。
今日は夜食を頼まれてはいなかったが、そういうときでも光秀は部屋で地方からの手紙を読んだりと簡単な仕事をしているので、お茶を持っていくのが常であった。
南瓜の甘味をどう作ろうか考えていて、いつものお茶出しの時間をいくばくか過ぎてしまった。
「失礼します。光秀様、お茶をお持ちしました」
光秀の部屋の前で膝を付き、声をかける。
ややあって返事が返ってきたので琴子は障子に手をかけた。
「遅くなってすみません…」
「お気になさらず。これはあなたの好意ではありませんか。それに時間など決められませんよ。いつもありがとう」
涼やかな笑顔で光秀は琴子からお茶を受け取って口にする。
そこで琴子ははたと気づいた。
いつもなら書簡などが広がっている文机周りは綺麗に片付いており、その上に犬千代からもらった墨絵が一枚、ぽつんと置かれていた。