第4章 【裏】私だけのひと。 ~明智光秀~
戦からしばらく経った日のことだった。
「琴子、これ」
ほら、と犬千代から渡されたのは女歌舞伎役者が描かれた墨絵だった。
「これ…阿国さん?!」
「わかるか。お前好きだったろ」
にこ、と犬千代は笑う。
「うん…! これどうしたの?」
「城下町歩いてたら、露店で見つけてよ。そういやお前、こういうの集めてたよな、って思って」
「うわぁ…懐かしい…」
幼馴染の犬千代と居ると、京に居た頃を思い出す。
女歌舞伎役者の墨絵を城下町で買って部屋に飾っていたのだ。
「さすが犬千代だね。私の好みの絵、よく分かってる」
「当たり前だろ。何年幼馴染やってると思ってんだ」
ふふ、と笑いかけると犬千代は少し照れたようにそう言った。
「ありがとう。早速部屋に飾るね」
「おぅ」
犬千代とのそんなやりとりを少し離れたところで光秀が見ていたとも知らず、琴子はいそいそと墨絵を部屋へと持ち帰った。
(光秀様に飾って良いか確認しなくちゃダメだよね)
同じ部屋で寝起きしているとはいえ、元は光秀の部屋。
琴子は光秀の希望で転がり込んでいるのだが、部屋の主は光秀だった。
夕餉の片付けも終わり、後は明日の朝餉の仕込みをしようという頃。
野菜を手に取りながら献立を考えている琴子の元へ、秀吉がやってきた。
「琴子ちゃん。明日の献立考えてるの?」
「あ、秀吉様。はい、大根の煮物を用意しようかと思っているのですが」
「いいね、大根。美味しくて好きだな」
「私も好きです。じゃあ決定ですね」
大ざるに大根をのせ、さらに他にも明日使うつもりの野菜をいくつかのせて目立つところに置いた。
秀吉はそんな琴子を見ながら何やら思案している。
「あの…何か御用でしょうか?お茶ですか?」
「ううん、大丈夫。ありがとう。琴子ちゃんに会いに来たのは、これを渡しに来たんだ」
はい、と手渡しされたのは大ぶりな南瓜であった。