第4章 【裏】私だけのひと。 ~明智光秀~
「あれ…」
「ああ…今日は、少し考え事をしていて、仕事が手に付かなかったので片付けていたんですが…これは琴子、あなたのですか?」
「はい。犬千代からもらったんです。小さい頃、家に飾っていたものとよく似ていて、懐かしくて…これ、飾ってもいいでしょうか」
「え、ええ…。もちろん」
にこりと微笑む光秀に琴子は違和感を覚えた。
(あれ? 今一瞬…嫌そうな顔した…?)
「光秀様?」
「はい、何でしょう」
その穏やかな微笑みは、何かを隠しているような…そんな風に見えた。
「…いえ…。あ、光秀様は南瓜、お好きですか?」
触れてはいけないのかもしれない、と琴子は話題を変えることにした。
先ほど秀吉から貰ったのだ、と言えばまたもや光秀の表情がほんの少し曇る。
一体どうしたというのだろうか。
琴子は心配になって、光秀との距離を詰めてその涼しげな双眸を見つめた。
「光秀様…私が邪魔であればおっしゃってください。お仕事が手に付かないほどのお悩みであれば席を外しますから。空いている部屋もいくつかありますし、お気遣い無用です」
考え事の邪魔をしているのかもしれない、と思い至った琴子は膝の上で握られていた光秀の手にそっと触れた。
その柔らかな感触に光秀は緩く首を振った。
「いえ…そうではありません。あなたは、ここに居てください」
「でも…」
「琴子。私はあなたに傍に居て欲しいと思っています」
冬空のような透き通った青い瞳が真っ直ぐ琴子を見つめる。
「……はい」
腰を浮かしかけていた琴子だったが、光秀の言葉に正座しなおした。
(本当にいいのかな…?)
ついつい探るような視線を光秀に向けてしまう。
それに気づいた光秀は困ったような表情を見せた。
「……すみません」
光秀の謝罪に琴子はきょとんとする。
「あなたに罪はないのですが…今日は、理性が利かないようです」
「えっ」
(どういうこと…?!)