第4章 【裏】私だけのひと。 ~明智光秀~
(光秀様が帰ってくる前にお勤めを終わらせなくちゃ…)
文机に向かって筆を走らせていると、再び障子の開く音がした。
「もう、犬千代、邪魔しないでったら。光秀様が帰ってくる前に全部終わらせたいの」
振り向きもせずにそう言うと、衣擦れの音ではないカチャカチャとした音が近づいてきて。
「邪魔をしてすみません…」
そっと背後から抱きしめられた。
「――光秀様!」
「あなたに早く会いたくて」
驚いて腕の中で身をよじってその顔を確認する。
少し疲れているように見えるが、大きな怪我はないようだった。
先の伝令で戦に勝利したことは知っていたし、犬千代たちも光秀が無事であることは教えてくれていた。
けれど、先鋒を担っていた光秀は一番城から遠く、帰ってくるのに時間がかかっていたのだった。
「おかえりなさい…ご無事で何よりです」
そっと背中に手を添えて二人はしっかりと抱きしめあった。