第16章 涙色のセカンドキス
ベッドの左側。白い壁。
兄と私の部屋を隔てるそれに、そっと、手のひらを当てて目を閉じる。
浮かぶのは、大好きな。
お兄ちゃんの笑った顔。拗ねた顔。照れた顔。明るくて、眩しくて、暖かい。
愛おしいその姿。
「……なんで、こうなっちゃうのかな」
私、ただ、好きなだけ。
同世代の子たちが恋をするように。ただ好きなだけ。光太郎のことが好き。ただそれだけだよ。
「でも、それすら、……っ許されない」
熱く、丸い、涙の雫。
頬のふくらみを伝ってポタリと落ちる。次から次へと落ちて、人知れず、ベッドカバーに染みをつくって消えていく。
──もし、この想いに素直になっていいのなら、今すぐにでも駆けだして会いにいくのに。
部屋を飛びだして。
左に三歩。
それで、ドアを開けるの。
テレビと向かい合うように置いたソファ。寝転んで雑誌を読むのが好きな兄。その広い背中に抱きついて、頬を寄せて、彼の温もりを。
「……っ会いたいよ、お兄ちゃん」
たった一枚。冷たい壁。
それが、途方もなく、高い。