第17章 エピローグ
「まあ美しいファーストキスだこと」
まさに美談、ってやつ?
流暢な英語で言ってみせて笑うのは木葉秋紀であった。
時は流れて7年後。日本を遠く離れたアメリカ合衆国、ニューヨークのとあるカフェでの一幕である。
「違うの、厳密にいえばセカンドキス」
一度目はもっと美しかったのよ?
悪戯な笑みを浮かべる女性は木兎かおりだ。彼女は梟谷学園を卒業後、渡米して舞台の勉強に勤しむ毎日を送っていた。
デザイン関係の仕事でこちらに転勤してきた木葉とは、行きつけのカフェで偶然出会い、度々こうして言葉を交わしている。
円形の小さなテーブル。
その上にはタンブラーがふたつ。熱々のシナモンパイと、それから、かおりのスマートフォンが置かれていた。
『日本決めました! また、彼です!木兎です! 音もなく飛び、豪快に叩きこむ。いやあ、さすがですね。木兎光太郎。彼はまさに、日本の光です』
138mmの液晶のなか。
日の丸を背負って、飛ぶ。
兄の背中をかおりの瞳が見つめている。優しくて、柔らかで、暖かい。
愛に満ちた眼差しだった。
「ねえ、アキノリくん」
「ん? なに?」
「アキノリくんもさ、実は、お兄ちゃんのこと好きだったでしょ」
「……は!?何言ってんだお前! そ、そそ、そんなワケねえだろ! 俺はいつだってぱつんぱつんのレディが好」
「あはは。隠さなくていいよ」
だって、知ってる?
私のお兄ちゃんはね。
「敵も、味方も、日本も、世界も。全部虜にしちゃうくらい、イイ男なのよ?」
プラトニック・ラブ___fin.