第14章 傷ついたふくろう
観ない。意識しない。
そう考えている地点で、既に、兄を意識してしまっているのだけれど。
五感に栓をして小道具を並べた。
無心を装ってモップがけをした。
途中、こぼれ球が舞台に転がってきたときは内心動揺したけど、それでもどうにか仕事を終えることができた。
やっと体育館から出られる。
そう、思った矢先の出来事。
ワッ──……!
沸きおこる歓声。
どよめくコート。
ちなみに、黄色い悲鳴のおまけ付き。
何かと思ってフロアを見やれば、そこには、プレースタイルを一新した木兎光太郎の姿があった。
恐ろしいほどに静かな兄。
常人には不可能な体勢からスパイクを決めても、フルパワーのサーブを何本決めても、何点もぎ獲ろうとも。
ガッツポーズひとつせず、ただ、冷静に。その黄金の瞳を燃やしている。
今日も今日とてギャラリーは多く、約半数が女子生徒だ。飛び交う声援。可愛らしい声。きゃー木兎先輩かっこいー!
耳を塞ぎたくて。
瞳を閉じたくて。
でも、やっぱり、目が離せなくて。
「……これで良かったんだよね」
別人のように見違えた兄を視界に収めて、誰に言うでもなくひとり呟いた。