第12章 いつか王子さまが
兄だけを見て生きてきた。
彼が、光太郎が見せてくれる世界が、私にとっては全てだった。
だから、兄から離れる、なんて。
そんなこと考えたこともなかったのだけれど。でも、そうしなければならないのなら。それが、彼の為になるのなら。
迷いはなかった。
辛くない、といえば嘘になる。
今でも兄のことは大好きだ。それは、きっと、これからもずっと変わらない。
両親の再婚で荒みきっていた私に、生きる【希望】を与えてくれたのが彼だったから。
だから、なのかな。
彼のようになりたいと思った。
兄のように、多くのひとに【何か】を与えられる人間になりたい。そう思う。
感動。興奮。羨望。
いつだってその中心で輝いている、彼のように。
私も、なれるだろうか。
コンコン。渇いた音が鳴る。
中からくぐもった返答が聞こえた。開いてますよ。男性の声。冷たくなった指先でドアノブを握る。
少しずつ、おずおずと、開ける扉。
「失礼します……!」
はじめの、一歩。