第12章 いつか王子さまが
(来てしまった……!)
気付くとここにいた。
放課後、ほぼ中身のない通学カバンを肩にかけて向かった先。
文化部の部室棟。その最西端。
眼前には【演劇部】と書かれた扉が立ちはだかっている。
ノックしようと試みて、早五分。
私はいまだ一歩も動けずにいた。
難しいことは何もない。はずだ。
普通に挨拶をして、見学したい旨を伝えて、中途入部は認めてもらえるのか確認する。
何度も脳内でシュミレーションしたのだ。その通りに行動すれば大丈夫。なのに。
あと一歩が、踏み出せない。
新しい環境に飛びこむ緊張。不安。期待。全部がごちゃごちゃになって、吐き気すら催してきた。
やっぱり帰ってしまおうか。
ようやく見つけた夢への第一歩に、背を向けて、その場から逃げだそうとする。
(でも、ここで諦めたら──)
なにも変わらない。
なにも変われない。
だから、覚悟を決めて、進め。
私は思いきり振りかえって、木製のドアにきつく握った拳を打ちつけた。