第11章 クロネコとタンゴ
物語の舞台は百年前。
ヨーロッパのとある都で、しがない作曲家の青年は恋に落ちる。心奪われた相手はまさに高嶺の花。高級娼館で働くディーバだった。
彼女の歌声は宝石よりも美しい。
多くの男が競うようにして彼女を買いたがるなか、青年の純粋な愛が彼女のハートを射止める。
真実の愛。
嫉妬の嵐。
数多の試練を乗りこえ、二人は結ばれたかのように見えたのだが──
「やだ、イヤだ……逝かないでくれ!」
「愛してるわ……ずっと、貴方を」
「……っう、ぁ、あああっ……!!!」
彼女は不治の病を患っていた。
涙で霞むラストシーン。
ヒロインは咽び泣く青年の腕に抱かれて、眠るように息を引きとる。彼女が最期に囁いたのは、他でもなく、青年へ贈る愛の言葉だった。