• テキストサイズ

(HQ) プラトニック・ラブ

第11章 クロネコとタンゴ



 暗闇に包まれる視界。

 聞こえるのは観客の息遣いだ。
 待望と期待を孕んだそれ。何が始まるのか。何を観せてくれるのか。劇場内を満たす緊張感にピン、と背筋が伸びる。

 緞帳(どんちょう)が上がりきった。

 直後、焚かれたのはピンスポット。

 真っ白な輪が浮かびあがる。
 その中心にいるのは、深紅のドレスを身に纏った女性だった。

 誰かが言う。

「……きれい」

 それは感嘆の声。

 美しく着飾って、凜と、舞台に立つ。自分とそう歳は変わらないはずの役者。彼女は綺麗という言葉自体を身につけているようだ。

 ス、息を吸いこむ音がした。


【愛なんて所詮、ゲームでしょう?】


 透明感のある声にのせられる台詞。
 観客の誰もが一瞬にして、彼女に惹きつけられる。その世界に引き摺りこまれる。

 同じだ。そう思った。

 胸に風穴があくような衝撃。
 沸々と湧きあがる、昂揚感。

 私は、この感覚を何度も体感したことがある。兄だ。お兄ちゃんの試合を観ているときと、同じ。

/ 96ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp