第11章 クロネコとタンゴ
「す……っごく良い舞台でしたね」
「だな。なんと言ってもやっぱり」
「主演の演技が最高でした」
「主演の演技が最高だった」
はた、と顔を見合わせて沈黙。
それからほとんど同時に噴きだして、私たちは笑った。劇場を出てからも延々感想を語って、駅前のカフェに入って、そこでもまた舞台談義に華を咲かせる。
不思議な気分だった。
知らなかったのだ。
バレー以外に、兄以外に、こんなに感動したことがなかったから。
「先輩、私、得た気がします」
「何を?」
「目指すべき夢を」
霧が晴れたような。そんな気分。
マキアート越しに見える先輩は、そっか、そう言って小さく微笑んでいた。
彼が、──主演女優の弟だという事実が私に知らされたのは、デートが終わって家に帰ったあとのことである。
「なんでもっと早く教えてくれなかったんですか!? ご挨拶とか握手とかしたかったのに!」
「誰が教えるかバーカ! 姉貴に彼女見せたりしたら後が大変なんだよ分かれバカ!」
「バカって言うほうがバカです!」
「何だとバカ」
「うっさいバカ」
クロネコと(痴話喧嘩)___fin.