第11章 クロネコとタンゴ
「演劇、ですか……?」
デートの待ち合わせ場所が大学。
その地点でなにか変だとは思っていた。しかし、まさか舞台鑑賞をすることになるとは。
「ちょっと驚きです」
「何に驚くんだよ」
「先輩にしては崇高な趣味なので」
「お前、とことん失礼だな」
先輩からのアイアンクローを華麗にかわしつつ、パンフレットを受けとってホールに入る。
全席自由。だそうだ。
ひとで埋め尽くされた劇場内を縫い、どうにか空席を見つけた。最後列左端から三番目。それが私のパーソナルスペース。
もちろん、隣には黒尾先輩。
右側にいる彼とは、要するに、ひとつの肘掛けを共有しなきゃいけないのだ。
ぶつかってしまった腕を引っこめて「すみません」「いや別にいいよ」だなんて。お約束のやりとりを交わしたところで、場内に第一ベルが鳴り響く。
「本日は当公演にお越しいただき──」
マイク放送。挨拶。注意喚起。
言われたとおりにスマホの電源を切る。すると、今度は第二ベルが高らかに鳴り響いて、客席の照明がゆっくりと落ちていった。