第2章 お兄ちゃんと私
どうしようもなく好きだから。
だから、今更諦めるなんて、そんなこと出来るワケなくて。
「なあかおり……あの話、して?」
「またするの?」
「聞かせて。お願い」
溶けた飴のような目でねだられて、私は、ぽつぽつと昔ばなしを紡いでいく。
「私が光太郎に恋したのはね──」
新しい父に勧められて観に行った兄の試合。初めて観るバレーボールの試合。
兄のチームは負けていた。
あと一点で相手の勝利が決まってしまう。そんな、崖っぷちの状況だった。
ああ、なんだ負けちゃうのか。
フェンスに頬杖をついてコートを見下ろす。バレーにさして興味もなかったし、兄とはいえ他人だ。熱をこめて応援する義理もない。
つい最近家族になっただけ。同じ家に住んでいるだけ。血の繋がらない、お兄ちゃん。
その幼く痩せた背中を、私は見ていた。ただぼんやりと、眺めていた。
『おれによこせぇぇぇ!!!』
響き渡ったのは、彼の雄叫び。