第10章 馬鹿じゃないの
「木兎さんっ……!」
黒一色で塗りつぶしたような、暗い闇のなかで、赤葦の悲痛な声が聞こえた。
何も見えないけど感じる。
赤葦の、悲しそうな顔。不安。焦り。
全部がその切羽詰まった声から伝わってくる。
重たくて仕方ない腕をどうにか動かして、後輩の感触をさがした。
手のひらが空を切る。
数秒後、感じたのはゴツゴツとした、豆だらけの手の感触。
「何、やってんですか……怪我なんて……!」
骨が軋む。鈍い痛み。
これでもかと握られた掌で、弱々しく赤葦のそれを握りかえした。
本当に何やってんだろうな、俺。キャプテン失格だ。エースの自覚も薄すぎ。
自分で自分が嫌になる。
「……ちゃんと治りますよね。木兎さんの腕、ちゃんと、またスパイク打てますよね……!?」
「落ちつきなさい赤葦君……ほら、彼が怪我したのは左腕だから」
「どっちの腕でも関係ない! 俺たちのエースの腕だ!!!」
飛んだのは赤葦の怒号だった。
並々ならぬ想いが詰まったその叫びに、心臓がぎゅう、と締めつけられる。
「……誰のせいですか」
「何?」
「一体どこの誰が、木兎さんにこんなひどい怪我させたのかって、そう聞いてるんです……!」